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京都地方裁判所 昭和37年(わ)889号 判決 1963年3月11日

被告人 中川賢六

昭二〇・一二・二生 生徒

主文

被告人を罰金弐万円に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和三十七年一月十三日午後八時五十分頃京都市東山区東大路通三条上る地先路上において、軽二輪自動車(一京い〇一五九号)を運転し、

第二、第一種原動機付自転車の運転者であるが、前記日時頃前記軽二輪自動車を、その後部に舟橋高広を同乗させて運転し、時速約三十五粁で前記道路の東側車道上に南方に向けて差しかかつた際、前方の市電東山三条東側停留所のすぐ手前の、東側一般車道中央部附近に、西向きで停車中のスクーターに跨り発車の態勢にある人がいたのであるから、かような場合に自動車運転者としては、前方を十分に注視して障碍物の早期発見につとめるは勿論、右のようなスクーターの動勢に留意し除行する等機宜に応ずる措置をとつて、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらずこれを怠たり、折からの降雨をさけるようにうつ向加減で運転したため、右スクーターを約七米に近づいてはじめて発見し、且つ、同車が停車し続けているものと軽信し、漫然同速度のままでその前面を通過しようとした過失により、約三米に近接したおりに右スクーターが西方に向けて発進する気配を示したので、狼狽して急停車の措置をとつた結果、自車を横辷りの状態で約二米滑走させて前記停留所の安全地帯北角辺に激突させ、よつて、同乗の舟橋に加療約一ヶ月を要する第四腰椎圧迫骨折の傷害を負わせたものである。

なお、被告人は、未だ二十歳に満たない少年である。

(証拠の標目)(略)

(確定裁判の存在)

被告人は昭和三十七年二月二十二日京都簡易裁判所において、道路交通法違反罪により罰金二万円に処せられ、右裁判は同年三月九日確定したものであつて、右事実は前科調書によつて明らかである。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は道路交通法第百十八条第一項第一号、第六十四条に、判示第二の所為は刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第三条にあたるところ、前記確定裁判のあつた罪と刑法第四十五条後段の併合罪の干係にあるから、同法第五十条により判示罪について処断することとし、その各所定刑中罰金刑を選択し、以上は同法第四十五条前段の併合罪の干係にあるから、同法第四十八条第二項により合算した罰金額の範囲内において被告人を罰金二万円に処し、訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条第一項但書を適用する。

(弁護人の主張に対する判断)

(一)  弁護人は、判示第一の所為について、被告人は当時舟橋高広の運転する軽二輪自動車に同乗していたところ、舟橋から、頭痛がして気分が悪いので運転を代つてくれといわれ、同人に運転を継続させることの危険を感じ、且つ、夜間である上に小雨が降つていたので、早く同人を送り届けなければならないという気持から、被告人が同人を右自動車に乗せて運転するの己むなきに至つたのであるから、被告人の無免許運転は緊急避難行為である。と主張する。

しかし、その当時における舟橋の症状その他の諸状況に鑑み、被告人が無免許をおかしてまでも、敢て右自動車を運転しなければならないほどに現在の危難が存したとは認められない。

弁護人の主張はこれを排斥する。

(二)  弁護人は、判示第二の所為について、被告人が第一種原動機付自転車の運転免許を受け、且つ、その運転に従事していた際に、たまたま軽二輪自動車を一回運転したとしても、それぞれ異質の行為であるから、軽二輪自動車の運転行為に業務性を認めることはできない。このことは、道路交通法が両者の間に存する人の生命、身体に対する危険性の度合に応じて、運転免許等に関し別異の規定を設けている趣旨からも、これを窺い知ることができる。と主張する。

おもうに、刑法第二百十一条にいわゆる業務とは、これを目的論的に観察し、各人の社会上の地位にもとずき、人の生命、身体に対し危険をともなう同種行為を継続的に反覆することであると解すべきである。

ところで、本件についてみるに、被告人が運転した軽二輪自動車と、さきに反覆運転していた第一種原動機付自転車とは、いずれも外観上同様の大きさと構造を有すると認められるいわゆる自動式二輪車であつて、ともにその運転が、人の生命、身体に対し危険をともなう性質のものであることは多言を要しないところである。

そこで進んで、被告人が第一種原動機付自転車の運転に従事していた際に、たまたま軽二輪自動車を一回運転したことをもつて、前後継続的に反覆された一体の同種行為として把握し、これに業務性を認めることができるかについて考察する。もと、軽二輪自動車と第一種原動機付自転車との区別は、これを道路交通法にみることができる。すなわち、同法は第二条において、自動車(軽二輪自動車を含む)を「原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車であつて、原動機付自転車以外のものをいう」と、また原動機付自転車(第一種原動機付自転車を含む)を「総理府令で定める大きさ以下の総排気量又は定格出力を有する原動機を用い、かつ、レール又は架線によらないで運転する車をいう」と各定義し、その運転免許等の取扱いについて別異の規制を設けていることが明らかである。しかし、この区別は、同法の目的とする道路における危険防止等行政施策上の要請にもとずくものであつて、これが、刑法第二百十一条の業務性を考量する上において、支配的な意味をもつものと解すべきではない。かえつて、前記のように、両者は、原動機を用いる点を共通にし、只その総排気量または定格出力に強弱の差があるにとどまり、その外観上も同様の大きさと構造を有し、且つ、その運転技術上においても異質的なものがあるとは思われないこと等に鑑みると、その運転は、いずれもこれを人の生命、身体に対し危険をともなう同種行為として観念し、その継続的に反覆された運転を前後一体の行為として把握し、これに業務性を認めることが、よく刑法第二百十一条の法意に適合するものというべきである。

弁護人の主張を容れなかつた所以である。

以上の理由により主文の通り判決する。

(裁判官 橋本盛三郎)

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